先日のブログで話が出たので、近所の本屋に行ってみた。
新谷弘実『病気にならない生き方―ミラクル・エンザイムが寿命を決める―』サンマーク出版(ISBN 978476319694)2005年7月
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とりあえずアフィは貼っておいたが、決してお勧めできる本ではない。
あらかじめ断っておくが、正直なところ、この本は立ち読み程度でしか知らない。
読んでいて矛盾する記述があったし、長い前書きが本人の経験談と自慢話ばかりで、たった30ページでも耐えられない、というのが本音だ。
……今回も読んでいて気分が悪くなり、購入する気力を失った。
大筋としては、「肉は食べるな」「乳製品は有害だ」「工場生産品は毒だ」「生食にしろ」と言う流れだ。
……工場生産品を否定しているくせに、サプリメントを開発している辺り、言動に一貫性を欠いているので信用ならない。
「医者になって40年、30万人の胃腸を見てきた」と本人は書いているが、そもそもそれだけの数の患者を実際に見てきたのか?
300,000人÷(40年×365日)≒20.55人/日
30万人を40年で診ると言う事は、1年365日、土日祝日年末年始無しで働いて、1日21人を相手にしなくてはならない計算だ。1日10時間労働として、30分に一人という計算でもなければ間に合わない。
医療従事者ではないから確信はないが、これはどう見ても「あり得ない」数字だろ。
また「一度も死亡診断書を書いたことがない」とも自慢している。
この一文を見た時の俺の感想は、これもまた「そんな事ありえないだろ」だ。この主張を裏付ける可能性として考えたのが、
1. 健康診断でしか胃腸を診ていない。
2. 生死に関わる重篤な患者の時は、担当から外れる/外される。
3. 死亡診断書を書くのは専門の事務員で、自分は最後にサインを書くだけ。だから「書いたことがない」と言い切れる。
4. 研究専門で、治療に携わった経験が非常に少ないか皆無。
5. 完全にでまかせ。
この5つだ。
本当に死亡診断書を書いたことがないとすれば、俺としては、胃腸の病気にかかった時には、この人の診察だけは受けたくない。
……45年医師をやっていて、死亡に立ち会わなかったなどと、どこのヤブかと……。
25ページか28ページ辺りだと思うが「ミラクル・エンザイムは仮説段階である」としていながら、そのすぐ後に「臨床的に証明されている」などと謳っている。しかもその根拠とやらは、自分の体験だときた。
……支離滅裂なのだよ、この人の言っている事。
臨床的に証明されているなら、どこかの文献にあってしかるべきだが、少なくとも俺の知る範囲(調べた範囲も含めて)、そのような『酵素の原料となる酵素』なんてものが「臨床的に証明された」という記事は見かけたことがない。
……『根拠』は自分の体験だと言うのだから、見つからなくても当然。こんなものが『根拠』なるはずがないのも、これまた当然。
そしてこの手のバイブル本に特有だが、色々と「あれが間違っている、こちらが正しい」と主張していながら、それら主張を裏付ける根拠のソースの記載は、何一つないのだよな。
似たような矛盾した記載は別の箇所にもある。
「人の身体が作り出せる酵素量には限りがある」としていながら、「ミラクル・エンザイムの材料を摂って、酵素量を増やそう」とか。
……早いうちに酵素を出し切ってしまえ、という話か?
一事が万事、全体的にこのような調子で書かれている。冒頭でも述べたように、体験談と自慢話にうんざりしてしまい、立ち読みでも途中から放り出してしまう程、読むに耐える代物ではない、が俺の評価だ。
……まったくもって、なぜこのような本がベストセラーの仲間入りをしているのかが、俺にはとても理解できない。
それはそれとして。
この人物、アルバート・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)外科教授という触れ込みだ。
http://www.drshinya.com/shinya.html#a
こう聞くと、自分の講義を開いて、医師の卵を育てていると思ってしまう。
しかし当の大学のHPを調べてみると、常勤教授(Full Faculty Staff)ではなく、俺の理解が正しければ非常勤(Voluntary Staff)なのだな。
これでは、自分の講義を持っているのかどうかも疑わしい。
……まぁ、1935年生まれとなれば、当年72歳の高齢だ。専任であるには体力的に厳しいものがあるかもしれない。
それと俺の感覚で言えば、非常勤の人間に病院の一部門の長を任せるのは、ちょっと考えられない人事だよな。
「本当にセンター長なのか?」と、ちょっと……どころではなく、かなり疑っている。
さて、この本が出版されたのは、2005年7月だ。
それから約半年後の同年11月、新谷氏がシニアエグセクティブ・ディレクターを務める株式会社ジョージオリバー(当時潟wルシーウェーブ)から、『エンザイムX』というサプリメントが発売された。
関連記事は、以前に取り上げた。
http://tsure-zatsu.seesaa.net/article/9457063.html
言うまでもなく、『病気にならない生き方』のタイアップ商品だ。
と、ここまでこのブログを書いている最中に、こんな新聞記事が出てきた。
朝日新聞『ベストセラーの著者に牛乳業界が質問状 有害の根拠示せ』2007年3月28日
===引用開始===
ベストセラー「病気にならない生き方」(サンマーク出版)で、著者の新谷弘実氏が「牛乳を飲み過ぎると骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になる」などと書いていることに対し、日本酪農乳業協会がつくる学識者の団体が、新谷氏に「科学的根拠を示してほしい」との質問状を出した。
(中略)
同会議は「主張の科学的根拠に大きな疑問を持っている」と、牛乳・乳製品の摂取増加が閉経後の骨量減少を抑えるという論文を挙げたり、牛肉や卵より優れている牛乳のたんぱく質の消化率を引用したりと根拠を示しながら、8項目にわたり反論。新谷氏に主張の科学的根拠を示すよう求めている。回答期限は4月末。
===ここまで===
利権絡みからの質問状なのは判るが、この手の『エセ健康本』の筆者に、専門家から質問状を出したのは歓迎する流れだ。
新谷氏がどういう反応をするか楽しみだ。
……どこかの誰かのように、「この本はポエムだ」などと言い出しはしないだろうな。
とは言え。
新谷氏、35年前には腸内視鏡で有名になったそうだ。
ところがこの歳になり、怪しい健康商品に手を染め、挙句にはマルチ商法に加担するとは……。
……情けない。と言うか……哀れ……だな。