血液中のこの生命体の数と変態段階を観察すれば、病気の種類と進行が診察できる。また、この生命体の活動を左右することで、ガン他の病気の治療にも応用できる。
「まともな」生物の本ならばどこも取り上げないこの『生命体』は、ソマチット(somatid)と呼ばれている。
Somatid(複数形はsomatids)だから『ソマチッド』と発音するべきなのだろうが、『日本ソマチット学会』の副会長、福村一郎氏にならい「ソマチット」としておく。[1]
●ソマチットとは
ソマチットとは、ガストン・ネサン(Gaston Naessens)が自ら開発した暗視野顕微鏡『ソマトスコープ(Somotoscope)』でヒトの生きた血液を観察し、発見した生命体だ。[2]
ネサンによると、ソマチットは外部から侵入した細菌やウイルスの類ではない。元々ヒトの血液中に生息する生命体で、その活動により健康と病気が左右されるとしている。
ソマチットの生態としてのサイクルは、大別して2種類存在する。
健康なヒトの中にあるうちは単純な活動しか取らない。健康なヒトの中にあるうちは、『マイクロサイクル』と呼ばれるサイクルを取り、これは3形態しかない。
しかし環境の悪い(ガンなどの重篤な病気を持つ)ヒトの中にあると、ソマチットは『マクロサイクル』と呼ばれるサイクルに移り、身体に影響を与えていく。こちらはバクテリアや酵母菌、カビに似た形状を含めた16形態がある。
ソマチットがマクロサイクルに移行するのは、病気により免疫機能が低下し、細胞内の体液の変化が原因だと、ネサンは推測している。このような環境の変化(病気だけでなくストレスも含む)により、ソマチッドは毒素と『トレフォン(trephones)』と命名した成長ホルモンを分泌する。
これらの物質が正常な細胞の活動の阻害と免疫機能の低下を促進し、病態を進行させるのだ。
ネサンはさらに、ソマチッドの分泌する毒素とホルモンは細胞分裂にも影響を及ぼし、原始的な細胞を増殖させるとしている。この原始細胞が体内の窒素を取り込み、全身の細胞に「窒素欠乏状態」を作り出し、最終的にはガン細胞になるのだ。
ガン細胞は『ガン細胞前駆体(co-cancerogenic K factor (CKF))』を生産し、これもまた免疫細胞の活動を阻害する原因となる。
血液中のソマチットの数と形状を観察すれば、病気の種類と進行を予測・診察することができる、と言うのがネサンの主張だ。
残念なのは、ソマチットの存在を示唆する研究論文は、査読のある専門誌に提出されていないし、ネサンのガンの発祥理論は、現在の科学とは相容れないものである、という点だ。
●ソマチットの観察(ソマトスコープ)
Gaston Naessensの発明した暗視野顕微鏡『ソマトスコープ(Somatoscope)』は、従来の光学顕微鏡では着色した「死んだ」細胞を観察するのに対し、着色の必要なしに「生きた」細胞を観察できるという利点がある。
ソマトスコープで拡大できるのは約3万倍。後発の電子顕微鏡であればもっと高い拡大が可能だが、電子顕微鏡もサンプルの加工が必要なため、観察できるのは「死んだ」細胞となる。
ソマチットは「死んだ」状態では観測できないので、ソマトスコープはソマチットを観測する有効な手段だ。
ソマトスコープの原理は、2種類の光波(可視光線と紫外線)を合わせることで、3つ目の、より高い周波数の光波を作り出すことにある。この第3の光波を磁力により分裂させ(Zeemann Effect; ゼーマン効果)、サンプルに当てると、サンプルそのものが光を放つようになる。これにより、これまでの光学顕微鏡の30倍の解像度と拡大率を得られる、という理屈だ。[3][4]
「死んだ」細胞では活動は観測できなくとも、それなりの残骸ないし形跡は観測できるとするのが妥当だろう。しかし血液(血漿、赤血球)から、そのような生命体の存在を示唆する残滓が観測された報告は上げられていない。
●ガストン・ネサン(Gaston Naessens)
Gaston Naessensは1924年生まれ、カナダはケベックに住むフランス人の科学者だ。
一般的な顕微鏡が、サンプルを着色した「死んだ」細胞を観察するのに対し、着色の必要なしに「生きた」細胞を観察できるソマトスコープを開発した人物だ。
ソマトスコープで「生きた」血液を観察した結果、血液中にこれまで未確認だった生命体『ソマチット』を発見し、それが遺伝子に影響を与える疾患との関係が明らかとなった。
そしてガンなどの病気を発症した人体のソマチットの活動を抑制し、正常な活動に戻すことで、うまくいけばガン細胞の縮小化にも貢献するだろうと、新薬「714X」の開発をしたのだ。
ネサンと法廷は、親和性が高い。
1956年、母国フランスの法廷で、ネサンは無免許での医療活動を行った罪で、有罪判決を受けている。[5]
1980年代には、カナダで健康系の詐欺容疑で終身刑を求刑されていたが、714Xの使用者が大量に法廷で証言した為、無罪となっている。
ただし714Xがガン治療に貢献したという、専門家が査読・検証できる知見データは、何一つ提出されていない。[6]
●714-X
自称・新薬『714-X』は、ガストン・ネサンがガン治療用に開発した商品だ。
この商品の有効性及び安全性に関するデータは、動物実験も含め2006年7月時点においても、査読のある専門誌では発表されていない[7]。動物実験を行った第三者機関の報告はあるが、結果は陰性、効果は確認できなかったとされている。
「714X」の商品名は、Gaston Naessansのイニシャルと、生まれた1924年に由来する。『G』はアルファベットの7番目、『N』は14番、そして『X』は24番目による。
アメリカFDAの分析によると、94%が水、約5%の硝酸塩、1.45%のアンモニウム塩、各1%未満のエタノール、ナトリウム、塩素、そして0.01%未満のカンファー(樟脳)から成る。この樟脳は、Cinnamomum camphoraというシナモンの低木から抽出したものだ。[8]
Naessensがカンファーを選択したのは、カンファーがガン細胞と特別に引き合う特性を持っていると「信じていた」からであり、科学的な根拠があったのではないようだ。同様の「信じていた」という理由から、細胞の窒素欠乏症対策のために硝酸塩を加え、ガン患者のリンパ腺の回復にとアンモニウム塩を加えている。
714Xはガン・AIDS・その他の慢性病の治癒効果を謳いカナダ、メキシコ、西ヨーロッパで販売されているが、アメリカのFDAやカナダの医薬局には承認されていない。
714Xの効果効能を謳った書籍を販売、さらに「714X」を密輸入・販売していたニューヨーク州のWriters & Research Inc.は、未承認医薬品の輸入・販売を行った件でFDAから告訴され、1996年に有罪判決が出されている。[9][10]
法廷において、Writers & Research Inc.側の弁護士は、「714X」はホメオパシーの薬だと主張している。よってFDAの規則に抵触するものではない、と。
しかし「714X」のラベル表記『trimethylbycyclonitraminoheptane-chloride』から、これがホメオパシーと判断する事はできないと、その主張は退けられている。
書籍では「714X」の効果として、エイズ、ガン、リューマチその他の自己免疫疾患の治癒率が75%と謳っていた。この「治癒率75%」の数字は、『日本ソマチット学会』でも副会長の福村一郎氏が「驚異的」と伝えている。
カナダでは2006年10月2日から、「714X」をSAP (Special Access Program)を通じて入手できるようになっている。これは他に治療法がない場合のみ、つまり気休め的な目的で適用される措置だ。[11]
●日本ソマチット学会(Japan Society of Somatid Science)
日本では『日本ソマチット学会(Japan Society of Somatid Science)』という組織が2005年3月に設立されている。
ソマチット学会で行うソマチットの説明は、ネサンが提唱していたものとは微妙以上のずれを持っている。
ここでの『ソマチット』とは。
「ヒトの体内に共存し、体内の環境が悪化すると自ら殻を作り出し、その中に閉じこもる事で数千万年を生き永らえる事のできる不死の微小生命体。
ソマチットの血漿中の増減と、ヒトの免疫力の強弱は比例し、生命活動に大きな影響を持つ。
さらにはガンの予防・治療にも応用できる可能性があり、昨今の代替医療で注目を寄せられている」
との事だ。
DNAの前駆物質の可能性も示唆しているが、『生命体』と言っていながら『物質』と称する辺り、ソマチットが生命なのか物質なのか、明確ではないようだ。
この組織の理事長は、松永修岳(まつなが しゅうがく)氏、『風水環境科学研究所』の代表も務める人物だ。
『風水環境科学研究所』でのプロフィールでも、風水や運命学その他の学問(宗教)に手を染めていたかを語っている。[12]
◎参考インターネット
[1] 日本ソマチット学会HP:
http://www.somatid.net/aisatsu.html#a01
[2] Elizabeth Kaegi “Unconventional Therapies for Cancer: 6. 714-X,” Canadian Medical Journal, June 16, 1998; 158 (12) 1621-1624
http://www.cmaj.ca/cgi/reprint/158/12/
1621.pdf
[3] Norman Allan “Gaston Naessens and 714-X”
http://www.normanallan.com/Med/714.html
[4] Steven R. Elswick “The Amazing Wonder of Gaston Naessens” Nexus Magazine, February March 1994.
http://www.whale.to/v/naessens.html
[5] American Cancer Society “714-X” June 1. 2005.
http://www.cancer.org/docroot/ETO/content/ETO_5_3X_714-X.asp?
sitearea=ETO
[6] National Cancer Institute “714-X (PDQ)” July, 24. 2006.
http://www.cancer.gov/cancertopics/pdq/cam/714-X/patient
/allpages/print
[7] “Complementary and Alternative Medicine, 714-X Information for Patients.” Dona-Farber Cancer Institute, September 23, 2005.
http://www.dfci.harvard.edu/can/complementary-and-alternative-medicine
/View.aspx?lang=en&audience=1&doc=CDR0000062972
[8] Stephen Barrett “Fanciful Claims for 714X” Quackwatch, March 22, 2002.
http://www.quackwatch.org/01QuackeryRelatedTopics/Cancer/714x.html
[9] “Court Affirms Conviction for Peddling Phony AIDS Cure.” AIDS Policy and Law, July 25. 1997; 12 (13): 15
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?Db=PubMed&Cmd=ShowDetailView&TermToSearch=
11364508&ordinalpos=2&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_
ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum
[10] Paula Kurtzweil “Promoter of 714X Cure-All Faces Prison for Selling Unapproved Drug” Quackwatch, March 22, 2002.
http://www.quackwatch.org/02ConsumerProtection/FDAActions/pixley.html
[11] “Federal Court Agrees with 714-X Patients.” National Coalition for 714X, Oct. 2, 2006.
http://www.coalition-nationale-714x.com/CoalitionLettreMD_20061002en.pdf
[12] 風水環境科学研究所HP:
http://www.fusui.co.jp/index02.html
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この種のモノは、例えば身内が末期のガンである人等にとって、
大変「魅力的」なモノであると云う一点において、
犯罪的であると感じます。
ワラの代わりに掴みたくなる人もいるでしょう。
コメントありがとうございます。
幸いと言うか何と言うか、日本ではソマチットは変な宗教と風水、波動関係の人達の玩具になっています。
カナダやアメリカほどには広まらないだろうと期待しているのですが、ワラにもすがりたい人たちが何にすがるかというと、この手あの手の「奇跡」ですから、油断はできません。
しかも本当に恐ろしいのは、この手のものを信じる人達は、フィクションとリアルな科学の区別を付ける能力が欠如していることです。
http://www.peace2001.org/2006/pdf/rashin/ancient_somatide.pdf
こういう人達が「18ヵ月後にガンになる」などと言われて、医者では手が出せないから(「壊れていないものを直す必要はない」の原則に従っているだけですが)と、こういう怪しい商品に飛びつくのでしょうね。