2006年09月28日

モーツァルト効果

 『ネットワークビジネスリスク研究所』掲示板でやり取りしているところに、『モーツァルトセラピー』という単語が出てきた。
 咄嗟の印象は「音楽を聴いてリラックス」程度だろうと予想したのだけど、どうも微妙に違うらしい。モーツァルトの音楽を聴くと、子供の学習能力が上がるのだそうだ。
 臨床論文もあるという話なので、眉がベトベトになるまで唾を付けてから検索。
 ……こういうのは普通、言い出した方が根拠となるデータを出すものなのだけどなぁ。
 Wikipediaの日本語版には該当するものはなかったけど、Mozart Effectが英語版にはあった。他にも幾つか有用そうなサイトが出てきたので、調べてみることにした。

 それによると、だ。
 『モーツァルト効果』の出所は、フランスの物理学者Alfred Tomatisなる人物が唱えたものらしい。Tomatisは音響と音楽の生理に及ぼす効果を50年以上かけて観察したところ、モーツァルトの曲が一番効果的だったとしている。(1)
 ……イグ・ノーベル賞候補になるな。
 と、普通なら記憶のゴミ箱に放り込んで終わりの話なのだけど、どこからかおかしな臨床論文が上げられ、おかしな方向に曲がってしまった。
 その『おかしな』臨床論文を提出したのが、1993年のウィスコンシン州立大学の心理学者Francis H. Rauscherと、カリフォルニア州立大学アーバイン校の物理学者Gordon Shawのグループ。モーツァルトの『2台のピアノのためのソナタニ長調K.448』を聞かせたところ、空間認識力の向上と、知能指数8~9ポイントの上昇が確認された、という内容らしい。(2)(3)
 この論文は科学誌『Nature』で発表されたようだが、そのNatureのサイトで『Mozart Effect』を検索しても、該当する論文のタイトルは見つけられなかった。10年以上の論文だから掲載されていない、とは思えないのだが……。それとも、『ガセネタ』と判断されて削除されたのか……。
 ……他の理由があったとか、調べ方が悪かったとかの原因かも知れないけどな。

 では、「『モーツァルト効果』に関する論文は見つからなかったのか?」と言うと、そうでもない。全部で8件のヒットがあり、うち3つは同じ内容なので、合計6件の論文が出てきたことになる。さらにそのうち、『モーツァルト効果』に言及しているのは3つしかない。
 1993年にあったとされる発表から13年も経つのに、アクセプトされた論文がこれだけしかないと言うのは、ほとんどの専門家が初めから無視しているか、追試をしても結果が出ていないか、なのだろうな。
 ……と言う勝手な思い込みはさておき。
 その検証の内容だが、『モーツァルト効果』の存在を肯定する内容ではない。
 これはNature誌1998年8月26日版に『Prelude or Requiem for ‘Mozart Effect’』というタイトルで寄稿されたものだ。残念ながら本文は有料のため手を出せないが、概要だけでも『モーツァルト効果』を否定しているのが判る。(4)(5)
 Christopher F. Charbisはメタ分析を行い、Rauscherらの「変化した数値は微小であり、知能指数の上昇や空間認識力の向上に寄与しているとは判断できない」と断言しているし、Kenneth M. SteeleらはRauscherらの論文通りに追試を行い、「音楽を聞かせることで理由付けする能力が向上するという直接的な証拠は得られなかった」としている。
 ……科学的でない感想を言わせてもらうと、だ。経験則から「効果なんてない」って判らないか、そんな事?

それらの報告に対し、Rauscherは反論、というか自説の否定をしている。(6)
 「CharbisとSteeleらが繰り返しているのは、『モーツァルトの音楽を聞くことで知能指数が向上する』という部分だ。しかし我々はそのような主張を行ってはいない。この効果は、空間認識力を要する単純作業に限定されている」
 ……ぉぃぉぃ。1993年の論文が読めないので真偽は問えないのだけど、当時の自分達の研究を否定してどうするよ?

 ともかく。
 モーツァルトの曲を聴いたところで、知能は上がらないという事だ。これは最初の論文を提出したRauscher本人の主張なのだから確実だろう。
 学習能力については、今回調べた範囲ではRauscherはまだ固執しているようだけど、現在はどうなのかね?
 New York Times誌のインタビューで、Rauscherは別の失言もしたようだ。(7)
 「私は子供たちに素晴らしい文化的体験をさせたいだけだ。音楽教育にもっと費用をかけるべきだと思う」
 ……情操教育は必要だろうけどさ。Steeleの反証への言い訳としては、余りにもお粗末、というか見当外れな発言でないか?
 ちなみに和訳は俺がやっているので、翻訳専門家の正確さを保証したものではない、と付け加えておく。

 結果としては、やはり眉に唾付けて正解だったようだ。
 個人的には、『モーツァルト効果』が存在しようがしなかろうが、別にどうという事はない。
 気に入った音楽なら、何度でも聞きたいしリラックスにもなる。作業効率が上がるかと訊かれると、疑問だけど。嫌いな音楽なら、聞くだけで苦痛だし、無理して聞かされようものなら途中で眠りこけてしまう。
 ……まさかこの居眠りを、『リラックス効果』とは呼ばない……よな?
 そしてモーツァルトを始めとするクラシック音楽というのは、俺にとっては「眠くなる」の一言で却下の対象だ。
 ……2台のピアノのためのソナタニ長調K.448……? 知りません。何ですか、それ?
 その程度のものだ。


◆参考インターネット◆
1) The “Mozart Effect”: http://www.excel-ability.com/Models/MozartEffect.html
2) Mozart effect: http://en.wikipedia.org/wiki/Mozart_effect
3) 頭の良くなるモーツァルト:http://hb8.seikyou.ne.jp/home/pianomed/344.htm
4) Christopher F. Charbis “Prelude or requiem for ’Mozart effect’,” Nature 400, 826-827 (26 August 1999):
http://www.nature.com/nature/journal/v400/n6747/abs/400826a0_fs.html
5) Kenneth M. Steele, Simone Dalla Bella, Isabelle Peretz, Tracey Dunlop, Lloyd A. Dawe, G. Keith Humphrey, Roberta A. Shannon, Johnny L. Kirby Jr. & C. G. Olmstead “Prelude or requiem for ‘Mozart effect’,” Nature 400, 827 (26 August 1999): http://www.nature.com/nature/journal/v400/n6747/abs/400827a0_fs.html
6) Francis H. Rauscher “Reply: Prelude or requiem for ‘Mozart effect’,” Nature 400, 827-828 (26 August 1999): http://www.nature.com/nature/journal/v400/n6747/abs/400827b0_fs.html
7) Lucie Renaud “The Mozart Effect: True or Bogus?” (1 October 1999): http://www.scena.org/lsm/sm5-2/mozart-en.htm
posted by にわか旅人 at 22:32| Comment(1) | TrackBack(0) | 似非科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私、Natureの原典論文、持っています。私もMozart effectがうさんくさくて、いろいろと調べていた次第です。Natureのタイトルには、Mozart effectは入っていないですね。

Rauscher, Show, & Ky (1993). Music and spatial task performance. Nature, 365, pp.611.

Posted by TK at 2008年10月11日 23:32
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