2009年01月01日

自閉症とキレーション治療

新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 さて。
 読んでいて少々気になるブログを見つけた。似非科学や似非医療に引っかかった人で、自閉症の子供を持つ父親(ムーパパ)のブログだ。

自閉症のサプリメント
   http://diary.jp.aol.com/agknumd7/

 藁にもすがりたい気持ちから似非科学に引っかかったと言うより、科学リテラシーの著しい欠落が原因で引っかかってしまったという印象を受けた。本人に自覚はないのだろうが、洗脳され搾取されていく様が痛々しい。
 ……2006年1月の更新が最後になっているが、果たして元気でいるのだろうか?

 良い歳をした大人が、知識不足から変なものに引っかかるのは、半分自己責任のようなものだろう。問題は、似非科学に引っかかった親のせいで、子供が虐待される事だ。
 ……殴る蹴るだけが虐待ではなく、医学的根拠のない試験の結果を元に、これまた医学的根拠のない商品を飲食させるというのも、虐待の一種だろ?

 虐待云々の話は、とりあえずここでは触れないとして。
 ムーパパが子供の治療の「つもり」で取り組んでいる1つが『キレーション療法』だ。

 『日本キレーション治療普及協会』の説明によると、だ。
   http://www.chelation.jp/therapy/therapy.html
===引用開始===
EDTA(エチレンジアミン四酢酸)と呼ばれる合成アミノ酸をビタミンやミネラルと共に定期的に点滴する治療方法です。EDTAが金属イオンをキール(ギリシャ語でカニのはさみ)のように掴みとり結合する性質から、キレーションという名前がついたと言われています。

EDTAキレーション治療は、有害金属を取り除く効果があり、抗酸化作用により血管を若返らせ、細胞を活性化する効果があります。抗加齢医学の領域でキレーション治療が注目される理由として、動脈硬化治療効果や有害金属除去による様々な変性疾患の予防と治療効果が期待できる点が挙げられます。
===ここまで===

 キレーションの名前の由来については間違っていない。
 キレートと言うのは、1つの金属イオンに対し2箇所以上で塩になる場合だったような……記憶が曖昧。

 キレーションにより有害金属を取り除くとあるが、キレート剤が有害金属(何をもって「有害」とするのかは不明)と選択的に結合し、体外に排出されるという仕組みに、根拠のある文献は俺がざっと調べた範囲では、鉛以外には見当たらなかった。
 ……鉛中毒患者の治療には使用されているようだが、鉛以外の重金属中毒の治療にも有効と示唆する文献は見つけられなかった。

Ogawa M, Nakajima Y, Kubota R, Endo Y. « Two Cases of Acute Lead Poisoning due to Occupational Exposure to Lead.” Clinical Toxicology, 2008 Apr; 46(4):332-5.
   http://mo-v.jp/?e3db

 ましてやキレーションによる抗酸化作用や、細胞を活性化させるという説明に、根拠の有無を問うまでもない。

 さて。
 このキレーション治療は、ムーパパの例のように、身内(特に子供)に自閉症を持つ家族にかなり広まっているらしい。自閉症の原因が重金属(水銀、Hg)の蓄積によるものと信じているようだ。
 ……水銀原因説を唱えているのは、俺の見たところ「怪しい」サイトが多い。

 自閉児の親からすれば、人並みにしてやりたいという気持ちもあるだろうし、その気持ちを否定するつもりはない。藁にもすがる思いで、この手の耳に心地良く聞こえる似非医療に手を出す気持ちは……残念ながら親ではないので共感できない。
 ……自閉症は先天性のものだそうで、親の自責感を避ける方便に水銀に責任を押し付けるのであれば、なおさらに親の気持ちに共感はできない。

 自閉症の原因はともかく。
 万が一キレーション治療で自閉症が改善されるのであれば、結果を裏付けるデータを取り、正規の医療につなげれば良い。
 しかし実際は、親(あるいは家族や本人)の弱みに付け込んだ商売なので、知見データなどあるはずがなく、自閉症児を持つ家族を称する人の体験談が目につく。

 科学的な根拠がないという事は、平たく言えば、安全性も危険性も確認されていない「医療の真似事」な訳で、実際、キレーション治療は「安全」とは言い難いようだ。キレーション治療が直接の原因ではないが、処方ミスによる死亡例が子供(2歳と5歳)で2件、大人で1件ある。
 ……5歳児の方は自閉症があったという話だから、親が治療目的でキレーション治療を受けさせていたのでは、とは俺の勝手な憶測。

“FDA Links Child Deaths to Chelation Therapy. Drug used to treat lead, mercury poisoning; often used for autism” MSNBC March 2, 2006.
  http://www.msnbc.msn.com/id/11640868/
Centers for Disease Control and Prevention “Deaths Associated with Hypocalcemia from Chelation Therapy --- Texas, Pennsylvania, and Oregon, 2003—2005” March 3, 2006. / 55(08); 204-207
   http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5508a3.htm

 報告によると、子供2人の死因となった処方ミスとは、同じEDTA塩(?)でもNa塩かCa塩かの違いで、どちらも医療施設には普通にある薬品らしい。ただしNa2EDTAは、子供の重金属中毒には使われないらしい。
 ……キレーション療法ではCaEDTAの方を使うようだが、どちらのEDTAにせよ、水銀中毒とその解毒作用に、科学的な根拠はない。

 「EDTAによる水銀の解毒作用」に科学的な根拠はないが、「水銀と自閉症」の関係を「否定する」資料なら見つかった。

Patrick Ip, Virginia Wong, Marco Ho, Joseph Lee, and Wilfred Wong, “Mercury Exposure in Children With Autistic Spectrum Disorder: Case-Control Study” Journal of Child Neurology, Vol. 19, No. 6, 431-434 (2004)
   http://jcn.sagepub.com/cgi/content/abstract/19/6/431

 こちらの資料によると、2000年に5ヶ月間に渡るコホート調査を行っている。
 対象としたのは82人の自閉症児(平均年齢7.2歳)で、55人の定型発達児(平均年齢7.8歳)の、毛髪と血液中の水銀量を計測・比較している。
 自閉症児の血液中の水銀量が平均19.53 nmol/Lなのに対し、定型発達児は17.68 nmol/L。毛髪分析では自閉症児が2.26 ppmなのに対して定型発達児2.07 ppmと、数値は誤差の範囲内であるとしている。
 つまり、水銀と自閉症に関連はないという結論だ。
 ……2004年の文献なので、新しい文献が出ている可能性はある。

 ちなみに毛髪検査に医学的な根拠はない。

 そもそも、なぜ「水銀が体内(主に脳)に蓄積すると自閉症になる」という与太話が出回っているのか、その出所が不明瞭なのだよな。
 ……定型発達者と比較して、自閉症者の脳から有意差のある水銀が測定された、という報告はないようだ。

 検索してみると、日本では2004年3月にTBSの『報道特集』で自閉症の治療としてキレーション治療が紹介されたようだ。
 ……あらかじめ言うまでもなく、自閉症を真面目に取り扱う組織からは、放送内容を否定されている。

NPO法人東京都自閉症協会『自閉症と水銀中毒について―キレート療法は有効か』
   http://www.autism.jp/etc_suigin.html
千葉県自閉症協会『TBSテレビ報道特集「自閉症の原因は水銀?」について』2004年3月14日
   http://www.interq.or.jp/japan/aschiba/tbs_autism_mercury.html
矢崎史郎『自閉症と水銀−TBS報道特集を斬る−』
   http://www.geocities.jp/symyky1019/Autism-mercury.htm

 TBSが取り上げる前でも、キレーション治療が自閉症に有効だとの与太話はあった訳で、似非医療としてのキレーション治療は、1960年代まで遡る。
 ……60年代において既に、キレーション治療推奨者らが主張する効果はないとの報告は上げられているし、何年か毎にこまめにキレーション療法の効果を否定する報告は提出されている。

Green, Saul “Chelation Therapy: Unproven Claims and Unsound Theories” Quackwatch
   http://www.quackwatch.org/01QuackeryRelatedTopics/chelation.html
American Heart Association “Questions and Answers about Chelation Therapy”
   http://www.americanheart.org/presenter.jhtml?identifier=3000843

 ただし90年代辺りまでは、キレーション治療は心臓病などの疾患に効果があるとしていたようで、自閉症との関係は言われていなかったように見受けられる。
 ……1989年にFDAとAmerican Heart Associationのレポートから、『10大健康詐欺』の1つとしてキレーション治療が取り上げられたのを境に、自閉症治療に移行したのではないかと、俺の勝手な憶測。

 キレーション治療が自閉症の治療(他に解毒作用)に効果があると主張するのであれば、キレーション療法を推奨する団体や医師・医学博士は両手でも足りない程いるのだから、誰かが文献にまとめて提出すれば良い。
 にも関わらず、キレート療法の効果と安全性についての研究をしている業者はいないようで、太っ腹にもThe National Institutes of Health (NIH)が研究費用をねん出したらしい。

Atwood KC, Woeckner E, Baratz RS, Sampson WI. “Why the NIH Trial to Assess Chelation Therapy (TACT) should be abandoned.” Medscape Journal of Medicine, 2008 May 13;10(5):115.
     http://mo-v.jp/?e3dd

 Atwoodらは、始めからキレーション療法の有効性の研究をする必要はないと説いていたらしいけれど、キレーション療法を信じる側の勢いを止める事は出来なかったということか。
 この調査は2009年に終わる予定だ。

 これ以上続けると、自閉症とは関係がなくなってくるので終わりにする。

 とりあえず。
 素人の俺が調べても、これだけ資料が出てくるのだから、キレーション治療がいかに胡散臭い、もっと言ってしまえば「いかがわしい」治療なのかは判りそうなものだ。
 それでもこの治療法に手を出す自閉症児を持つ親は、十分な情報が得られないからではなく、進んで自分の子供を人体実験にしているか、虐待しているように見える。

 一番悪いのは、そういう親の弱みに付け込んで、期待すらできない医療やサプリメントを売り物にしている業者だとしても、ね。
posted by にわか旅人 at 19:47| Comment(1) | TrackBack(0) | 健康増進? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
キレーションとか栄養療法とかはかなり怪しいですね。ナチュラルクリニック代々木などのクリニックは医者の権威を利用して患者を洗脳して儲けているとしか思えません。非常に残念な話です。
Posted by アンチサプリメント at 2009年02月14日 20:16
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