2009年3月28日と古い記事だけれど、90回目を数えるこのコラムに登場した人物は「三番町ごきげんクリニック」の院長、澤登雅一(さわのぼり・まさかず)医学博士だ。
三番町ごきげんクリニックHP『院長プロフィール』より
http://www.kenko.org/about_clinic/profile.html
===引用開始===
医学博士
東海大学医学部血液腫瘍内科非常勤講師
日本内科学会認定内科専門医
日本血液学会専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定
日本抗加齢医学会専門医
米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医
日本医師会認定産業医
1992年、東京慈恵会医科大学卒業。
血液内科医として、日本赤十字社医療センターにて14年間勤務。
2005年より三番町ごきげんクリニック院長。
===ここまで===
プロフィールを眺める限り、素人目には1点を除けばかなりまともに見える。
しかしHPを見れば明らかなように、「三番町ごきげんクリニック」は代替医療専門のクリニックだし、「米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医」という肩書きで、全てを台無しにしてしまった印象がある。
……キレーション治療に効果がない事は別のエントリで以前書いた。
あらかじめ断っておくと、『米国先端医療学会』などとHPで銘打っていても、ACAMはAmerican College for Advancement in Medicineの略で、ゲーリー・ゴードン(Garry Gordon)博士が設立したNPOだ。正式な学会ですらない。
ACAMは既存の医療をほぼ全面的に否定し、CAM(Complementally Alternative Medicine、代替医療)を推進している組織でもある。
……『キレーション療法』で調べると、Garry Gordonの名前がかなり出てくるので、ACAMはキレーション療法推奨で一番手を担っている組織と考えても良いだろう。
しかもACAMは、キレーション療法に科学的な根拠はなく、「キレーション療法に効果があるような広告」は行わないと、1998年にFederal Trade Commission(FTC、米連邦取引委員会)と和解した経歴も持つ。
Federal Trade Commission “Medical Association Settles False Advertising Charges Over Promotion of "Chelation Therapy" December 8, 1998.
http://www.quackwatch.org/02ConsumerProtection/ftcchelation.html
(Quackwatch のページより)
===引用開始===
The American College for Advancement in Medicine (ACAM) has agreed to settle Federal Trade Commission charges that it made unsubstantiated and false advertising claims that non-surgical, EDTA "chelation therapy" is effective in treating atherosclerosis, and that the effectiveness of the therapy has been proven by scientific studies.
米国先端医療学会(ACAM)は、アテローム性動脈硬化症の治療効果に、手術を用いないEDTA『キレーション療法』に科学的な研究で効果が証明されたかのような無根拠かつ虚偽の広告を今後行わないと、米連邦取引委員会との間で和解をした。
===ここまで===
澤登院長がこの事を知っていて、キレーション療法を薦めているのであれば悪辣だし、知らなければ許されるというレベルの話ではない……と思うのは俺の偏見。
……ただし広告規制はアメリカの話で、日本は無関係だと言われればそれまで。
以前のキレーション療法のエントリで色々と調べていた時に、このクリニックと澤登院長にも突き当たっていたので、俺的に「怪しい人物」との先入観がついているのは認める。
その上で、話を記事に戻す。記事からの引用部は青字にする。
私のクリニックでは大きく3つのテーマを掲げています。ひとつは血管、2番は体のさびつき(酸化)、3番は栄養バランスです。狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす粥状動脈硬化は血管にコレステロールなどがたまって動脈が狭窄し、血管が詰まりやすくなった状態です。
血管にものが詰まって動脈が狭まり動脈硬化につながるあたりは、俺は専門家ではないので断言はできないけれど、正しいと思われる。
……日本赤十字社で血液の専門家として14年勤務していて、それでデタラメを並べるはずないだろう。……という考えからだったのだけれど、某内視鏡の医学博士が専門分野でデタラメを並べていたのを思い出したら、自信がなくなった。
体がさびつく(酸化する)と老化が進むことはすでに科学的に十分認められています。また、ほとんどの病気の間接的あるいは直接的な原因となることもわかっています。
「身体の酸化=老化」の図式は、似非科学・似非健康関係のよくあるパターン。「酸化=老化」の例として、新しい鉄釘と赤錆の浮いた鉄釘との比較写真を時々見かける。
ちょっと考えてみよう。
ヒトの身体は鉄(Fe)でできているか? 答えはNo。Yesだと思うなら、亜鉛を身体に巻くなり、微弱電流を常時流し続けるなり、pHが10かそこらの塩基性水溶液に漬かっていればよろしい。
そもそも鉄を例に出して同列に語る自体間違えている。
……生命体には新陳代謝もあり、細胞は常に更新されている。この釘に浮いたサビの与太話を信じるヒトは、釘にも新陳代謝があると考えているのか、自分には新陳代謝がないと考えているのか、一体どちらなのだろう?
ところで、細胞の酸化と老化を比較したデータが出ているとは知らなかったな。その論文をぜひ教えてほしい。
3番目の栄養バランスに関して今大きな問題は、土壌枯れや農薬、化学肥料などで野菜や果物に含まれる栄養素が以前に比べ非常に少なくなっていることです。例えば50年前と今とを比較すると、ニンジン1本に含まれるビタミンA量は約10分の1に減っています。私たちは1日に食品添加物を1円玉1枚程度の量をとっているといわれます。食品添加物を体内で処理するにはビタミンB群などが多く必要です。つまり、私たちは昔と同じ量を食べてはいては、もはや栄養は不十分だということです。ところが、実際に私たちにどんな栄養素が足りないかは通常の検診ではわかりません。
……Don’t fix it unless it is broken. 壊れていないものは直すな。このフレーズが浮かんだ。
この辺の説明は、澤登氏の妄想全開という感じだな。
生鮮食品の栄養素が50年程昔と比べて10分の1に減っている、という話は良く聞く。ただしサプリメントの販売を目的とするサイトや提灯記事でだが。もう少し言えば、栄養素の減少の話は、根拠のないでまかせだ。
栄養素減少の与太話は、俺の調べた範囲では、1936年6月の『Cosmopolitan』の記事が出所のようだ。
“’Dead Doctors’ doesn't die.” National Council Against Health Fraud Newsletter, Jan/Feb 1998.
http://www.ncahf.org/nl/1998/1-2.html
===引用開始===
It turns out that the "document" is nothing more than the reprinting of a highly speculative article about a passing fad written by a Florida farmer in the June, 1936, issue of Cosmopolitan magazine as requested by Florida's Senator Fletcher.
その『記事』は、Fletcherフロリダ州知事の要請を受けたフロリダ州の農家が、1936年6月のCosmopolitanに掲載した流行に追従した記事であり、正確性の非常に低い記事以外の何物でもない。
===ここまで===
「食品添加物を分解するのにビタミンB群がうんたら〜」の下りは初耳、かつ意味不明。
……分解・吸収されなければ、そのまま体外に排出されるので、なぜ体内で一生懸命分解しなくてはならないのだろう? 食物繊維などの『難消化性』のものは、分解されずに排出されるのを知らない……とか?
さて。
出だしから疑問満載のこの3つのテーマを実践するために、「ごきげんクリニック」では点滴療法・サプリメント療法が主軸として行われている。その代表的なものが、『キレーション療法』と『ビタミンC大量点滴療法』だ。
キレーション療法は既に取り上げているので、ここでは省略する。
『ビタミンC大量点滴療法』は、分子矯正医学(Orthomolecular Therapy)や『メガビタミン』で知られる似非科学だ。
私がビタミンC大量点滴療法を知ったのは、2005年にアメリカで開催されたACAM(アメリカ先端医療学会)でした。(中略)私はずっとガンの医療に従事していたので、ビタミンC大量点滴療法の発表を聞いたとき、ガンの標準的治療法の欠点を補う治療法だと直感しました。
ここで出てきたACAM。
……直感で新規の医療方法を採用されては困る。せめて査読のある論文で調査してほしい。そう思うのは俺だけ?
優先すべきは標準的治療です。なぜならばビタミンC大量点滴療法よりも標準的治療のほうが、治療効果に対する科学的根拠が高いことは事実だからです。私のクリニックでは、ガンが進行して標準的治療では難しいという方や有効な治療法がないという方を除いては、標準的治療法との併用を原則としています。
まともな医療も提供しているのか。
うがった見方をすれば、「効果のないビタミンCの点滴だけで、医療ネグレクトで訴訟を起こされるのを防ぐため」とも取れる。
……これで治る患者が出たら、標準的な治療も同時に行っていた事には触れないで、「ビタミンC大量点適法でガンが治りました」と大きく宣伝するのかな?
私自身はクリニックでガンの患者さんにビタミンC大量点滴療法を提供するだけでなく、所属する東海大学血液腫瘍内科で、再発悪性リンパ腫に対するビタミンC大量点滴療法の第一相臨床試験を行っています。
体験談の収集ではなく、きちんとした方法で治験を集めているらしい。
それならそれで良いのだけれど、果たして有意義なデータが蓄積できるのやら。
……肯定的なデータだけでなくて、「○○人を対象に試験を行った。有意差は確認できなかった」の否定的なデータも『有意義』に入れるのは言わずもがな。
Wikipedia『治験』
http://xurl.jp/jiq
===引用開始===
第T相試験(フェーズ T)
自由意思に基づき志願した健常成人を対象とし、被験薬を少量から段階的に増量し、被験薬の薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)や安全性(有害事象、副作用)について検討することを主な目的とした探索的試験である。(中略)抗がん剤などの投与自体に軽い手術や長期間の経過観察や予め副作用が予想されるものは、外科的に治療の終わった患者(表面的には健常者)に対して、補助化学療法としての試験を行うことがある。
===ここまで===
学問の自由なので、研究すること自体の否定はしない。ただし結果が良好であれ空振りであれ、ちゃんと論文にまとめて提出してほしい。
……どこかの講演会で「かれこれこういう研究をしています。良好な結果が出ています」だけの話だけで終わらせずに、さ。
さてさて。
インタビューによれば「三番町ごきげんクリニック」で提供している医療にもまともな医療はあるようだが、HPを見る限りでは「かなり怪しい」治療法を色々と提供している「怪しいクリニック」という印象しかない。
困ったことに、この手の怪しい医療は、なぜかメディアへの露出が多いのだよな。いわゆる『業界紙』の『健康産業流通新聞』以外では、2008年3月25日にはTBSの『これが世界のスーパードクター8 !』にも出演したらしい。
http://tvtopic.goo.ne.jp/program/77/12117/168846/0/0/0/index.html
放送は見ていないので内容については触れないが、ガンや循環器系の病気に悩むヒトがこれを見たら、あっさり引っかかってしまうのではないかと不安を感じる。
「効果があるかどうかは判らないけれど、試してみないよりはマシ」と考えるのならば、それはそのヒトの自由なので、『キレーション療法』でも『ビタミンC大量点滴療法』でも受ければ良いだろう。
だけど効果がないと報告は上げられている訳で……。
……そんな似非医療にお金を注ぎ込むよりも、高めのレストランで食事するなり旅行するなり、別の事に費やす方が精神的に良いと思うのだが、どうだろう?
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